「三春さーん」
糸くんがリビングから私のいる書斎スペースに声をかける。
「ねえ、お花見、早く行きましょうよー。僕はもう準備満たんですよ? 早くしないと桜散っちゃう」
「お掃除が終わってからね」
机の下にせっせと掃除機をかけながら返事をする。
驚いたことに糸くんはミステリー作家になっていた。
最近売り出し中の新人作家だ。
まあ、それだけでは食べていけないので、喫茶店のマスターと執筆活動をおおよそ7対3の割合でつづけていた。
ここは彼が執筆しているスペースで、籠りっきりで全く掃除していなかったこの部屋の空気を入れ替えているところだった。
「あれ? これなんだろう」
引き出しからなにやら白い本がはみ出ていた。
本なら本棚に戻しておこうか、そう思って引き抜くと、
どうやら単なる小説ではなく、出版社も記載されていない、自費で製本にしたようなものだった。