マスターの想いの女性がドアの付近に来るとシルエットで分かるのだろうか、マスターは用事をしている手を止め、予約席の札をさっと隠す。



そして、「いつもの席、空いてますよ」と言うのだ。


女性は「ラッキーね」と嬉しそうにその席へ座り、

マスターのその女性を見る優しげな眼差しがなんともいじらしく応援したくなるのだった。



そんなやり取りを見ては微笑ましく、マスターの健気な姿にわたしは近くの席に座る常連ふたりと目配せする。



「今日はなにか進展あるかな」という合図だ。




 その女性と話している時のマスターは、喫茶店のマスターの仮面が剥がれてしまうのか、まるで少年のような笑顔を見せる。



相当惚れているようで、こっそり見ている私まで少し照れてしまう。



 2人には上手くいって欲しいなあといつもながら思う。


奥手で不器用そうな二人を見守るのも常連の務めだと勝手に解釈して、新聞を読みながら、わたしは内心ワクワクしていた。