それを広げて渡されたものは、なんと婚姻届だった。既に糸くんはサインを済ませていて、後は私がサインするだけとなっていた。
「これって……」
糸くんは優しく笑って、
「僕と結婚してください。必ず幸せにします、ずっと僕のそばに居てくれませんか?」
と真っ直ぐ私を見据えて言った。
「……っはい!」私は大きく頷く。
嬉しそうに目を細めた糸くんは「これでずっと一緒だ」と喜んでくれた。
窓の外からの月光が私たちの影を浮かび上がらせ、夜に溶かす。
糸くんが過保護すぎるという悩みもあったが彼自身が好きでしてくれていること、
それに、その悩みすら結婚という手段で解決してしまうのだ。
今もこれからも私は彼の好意に甘えてしまうだろう。
甘えてもいい人、無条件に頼れる人、そんな人が自分のそばに居てくれる。
これは生まれて死ぬまでの短い時間の中で必ずしも出会えるとは限らない。
私はとてもついていた。
いつも彼の店に行くと、カウンターの一番端の席、つまり私のお気に入りの席が空いているのとおなじでラッキーなのだと思った。