「ちょっと、なに聞いてるの糸くん!」
「いいじゃないですか」
糸くんは不安げな子犬のような顔で見てくる。その顔で見られると、もう何も言えなくなる。
華ちゃんは私たちのやり取りを見てふふふっと笑い、逞しく胸をどんと叩いた。
「任せてください。悪い虫はついていませんよ。何せ年寄りかクタクタの介護士しかいませんし、ちゃんと私が浮気しないように見張っておきます」
「何言ってんの華ちゃんまで……」
私は苦笑いを浮かべるが、糸くんは糸くんで「ぜひ頼みます」と頭を下げていた。
「華ちゃんなんか佐原さん一筋で全然私のこと見てないくせに」と独り言を零して私と糸くんは車に乗った。
「糸くん疲れてない?」
定休日なのだから本当なら家でゆっくり休んでいて欲しい。
「いやいや、疲れてるのは三春さんの方でしょ。僕は休みだったし、したくてしてる事なので全然」
「でも、休みの日なのに私のお迎えとか朝に電話してくれたりして、大変だと思うから。私、大丈夫だよ? 一人でも帰れるし起きれるよ?」