幼い頃から、君を見てきた。
家が近くて、小さな頃は毎日のように外で遊んだし、何かにつけて一緒になることが多かった。
秘密基地も作ったり、ルールの改ざんをしまくったドッヂボールもしたり。
中学に上がった頃からは、そんなガキ臭いことは、あんまりしなくなったけど。
その代わりに、君はSNSにハマったり、女友達とメンズアイドルについて話すようになったりした。
たしかに君は、女の子らしい成長をしていったと思う。
その頃から、僕も、思春期らしく恋とか彼女とかに敏感になって、「女子」な君を意識し始めた。
今思えば、ずっと幼い頃から好きだったのだと思うけど、なかなか気づけなかった僕はバカだと思う。
そのまま受験をして、なんとなく高校に上がった。
近くの高校にしたので、君と同じ高校だった。
そういう君とは、未だなんだかんだ仲は良くて、物の貸し借りもしたし、夜遅くまで一緒にゲームをした。
そんな君に、僕と同じ気持ちなのではないだろうかと、何度も思ったし、物語みたいに幼馴染み同士結ばれるのではないかと、どこか期待していた。
でも、この関係を壊すのが怖い僕には、行動を起こすなんてできるはずがなくて。
それで。
そして。
相手は、当時剣道部だった君の2つ上の先輩。
僕のことが好きなのかと思ったのは、僕の甘い幻想でしかなくて。
家の行き来だって、よくあそんだのだって、ぜんぶ、男として、まともに意識されていないだけだった。
「これでいいの?」
「あなたが一番わかってるじゃない。
私は、ここにいるべきじゃないの。」
「でも、僕は」
その続きは、到底言えない。
まだ、ここにいて欲しいなんて、わがままでしかない。
ましてや、君が好きなんて。
もう今更、言えることではないのだ。
彼女は、先輩に恋をして。
付き合って、浮気されて。
そのまま……死んでしまった。
自殺ではない。
ただ、涙で滲んだ視界のせいで、周りがよく見えていなくて、運悪くトラックに突っ込まれたのだ。
「私ね。ミノルくんに感謝してるよ。」
「何度も、聞いたよ」
日がのぼる頃には、彼女は消えてしまうだろう。
君の存在なんて、今はもう、酸素なんかよりもずっと薄くて。
溶けきってしまえば、もうわからない。
涙で視界が歪みそうになる。
……あの時の彼女の視界も、こんな感じだったんだろうか。
早くいなくなってくれ。
いや、行かないで。
好きだ。
愛してる。
君を抱きすくめて、ずっと一緒にいたかった。
君への気持ちが溢れ出して、おかしくなりそうだ。
「私がいなくなっても、元気でやってね?」
綺麗な笑顔で、そういう君は、あまりに残酷だ。
二度目の君がいなくなった世界は、どうやって生きていけばいいんだろうか。
ああ、こんなことなら、君の未練を晴らす手伝いなんて、するべきではなかった。
ずっと、この手の中に。
そんなことを、今でも思ってしまう僕は愚かなのか。
「……わかってるよ」
もうすぐ、日がさして、この屋上も輪郭を取り戻す。
「なあ、アイカ」
今更、愛してるなんて、言わないから。
「僕のこと、」
だけど、お前のことずっと好きだから。
「来世で待っててよ。」
消えゆく君の笑顔を、僕は肯定と捉えてもいいですか。