私が一人憤っていると、咲耶姫様は切なそうに目を伏せた。

「それにな、私はこの顔を火の神に見せたくないのだ。見舞いだなんだと言ってやってくるが、私を見ると憐れむような顔をする。醜いのだろう。だからもう、私たちは恋人ではないのだよ」

儚げに微笑んだ咲耶姫様は、痣なんて関係なくとても綺麗だった。

好きな人にひどい言葉を投げかけられて、傷付いてもそれでもまだ好きで、しかも痣を見せたくないと言う彼女はとてつもなくピュアで素敵な恋をしている。恋人ではないなんて言いながらも、かつての恋人に戻りたいのなはないだろうか。そこには確実に“愛”が存在しているように思う。
私の高志に対する想いとは全然違うこと思い知らされるようだった。
私はもう高志のことを好きなのかわからない。むしろ、好きだったのかも今では不明なくらいだ。

「お見舞いって、さっきみたいにお花を持って来てくれるんですか?」

「そうだ」

「それって、火の神様は咲耶姫様のことがまだ好きってことじゃないですか?」

「そんなことはない。あいつは私を見て逃げたのだ。この痣を憐れみに来ているだけだろう。それに飽きもせず毎回同じ花だ。バカの一つ覚えなのだ」

「毎回同じ花?」

私はこたつの上に置かれたキキョウを見る。
清々しい青紫色に咲き誇る花は、咲耶姫様によく似合っているように思う。

「咲耶姫様は火の神様が好きなんですよね」

「な、なぜそうなる」

「だってお見舞いに来た火の神様を見て嬉しそうでしたし」

「ぐっ……」

私がニヤニヤしながら煽ると、咲耶姫様は真っ赤な顔をして言葉に詰まった。

「まあ飲んでくださいな」

私は咲耶姫様のぐい飲みに日本酒を注ぐ。
波打つ日本酒は火の神様が作ったぐい飲みグラスにとても合い、咲耶姫様はそれを愛しそうに見つめた。

いつの間にか一升瓶は空になっていた。