「お前も飲め」

目の据わった咲耶姫様に凄まれ、私はおずおずとぐい飲みを差し出した。
咲耶姫様、飲み過ぎのような気がするけど、大丈夫だろうか。

「は、はい、いただきます!」

言うや否や、トクトクと注がれる日本酒。
注ぐ音が心地よい。
そんなに高いお酒には見えないけれど、このぐい飲みグラスに入れると見た目より何倍も美味しくなる気がするのはなぜだろうか。

こたつの対面に座り直した私たちは、ガンガンお酒を飲みながらスルメを食べ始めた。先程までのお菓子は女子会のほんのプロローグに過ぎない。本番はこれからと言わんばかりの咲耶姫様と私だ。

咲耶姫様はぐい飲みをトンと置くと、ふーっと深いため息をつく。
そしてポツリと言った。

「火の神とは結婚を約束した恋人だったのだ」

「っぐ!こ、恋人ですか!」

思わず口に含んだお酒を吹き出しそうになってしまった。
結婚を約束した恋人って、つまり婚約者ってことで。そんな風にはまったく見えなかったので衝撃が大きい。しかも過去形。
これは一体どういうことだろう。

咲耶姫様が語りモードになったので私は自然と姿勢を正す。他人の恋愛話は何だかドキドキわくわくしてしまう。特に神様ともなるとどんな恋愛なのだろうと興味津々だ。
私の頭の中では先ほどの厳つい神様と咲耶姫様が交互に現れる。
”結婚を約束した恋人”というワードが強すぎて、若干緊張してきた。

咲耶姫様はまたふーっとひとつ息をしてから、顔の痣をそっと触った。
顔全体に大きく広がる赤い痣は、もう痛くないのだろうか、今後消えることはないのだろうか。

「ある日この山で火事が起こった。それはひどい火事だった。あっという間に山全体に火が回ってしまった。私は彼らを助けようと奔走したが、たくさんの木々や動物たちが犠牲になってしまった。そのときに、私は顔に火傷をおったのだ。それがこの痣だ。あとから駆けつけてきた火の神は、私を見ると驚いた顔をした。そして不甲斐ないと言い顔を背け逃げていったのだ。さぞかし醜かったのだろう。私の皮膚は焼けただれていたのだからな」

「ひどい。そんなことが……。痛かったでしょうに、つらかったですね」

「火傷は痛くはない。人間とは痛みの感覚が違うのでな。それよりも山を守れなかった事のほうがつらかった。私は山の神なのだからもっとしっかりと守らねばならなかった」

「でも火事はどうすることもできないじゃないですか?」

「そうだな。だが私は山の神だ。もっとできることがあったはずなのだ。だから火の神も私を不甲斐ないと言ったのだろう」

「そんな、あんまりです」

山の神だから山を守らなければいけない。それはそうなのかもしれないけど、大火傷を負った咲耶姫様に不甲斐ないだなんて追い打ちをかけるような言葉、一体火の神様は何を考えているのか。

本当に、火の神様といい高志といい、男ってやつは何でこうもデリカシーがないのか。神様と一緒にしてはいけないのかもしれないけれど、何だか考えるとムカムカしてくる。