りーんりーん

ドアに飾られた朝顔が描かれたガラスの風鈴が風に揺られて夏の音色を奏でる。

店内に響く風鈴の音色はつい先日聴いた彼女の歌声に似て優しい。
あの日のことを思い出すとつい頰が緩む。



*

夏休み初日、その日は朝から雨が降っていた。
椿さんの所へ向かう足取りは空にかかった黒い雲のように重い。
サラリーマンや部活動の用具を持った同級生たちとすれ違うたび互いの傘が擦れる。

すれ違い様に見た彼らの顔は雨だというのに清々しい面持ちだった。
商店街では憂鬱とは程遠い、おじさんたちの威勢のいい声が響き渡っている。

あ、祭り。
俺らの住む地域の商店街では花火大会とは別の、商店街活性化のための祭りが明後日から行われる。俺はほとんど行ったことはないからよく知らないけど。
そのための準備をしているのだろう。

花屋のドアを開けるといつも陽気な椿さんは珍しく無口で忙しそうに花束を準備していた。
そんな椿さんに「おはようございます」と声をかけても、一瞬俺を見てニコッと笑っただけで、またすぐに作業に戻る。

「ちょっと急ぎの仕事が入ってな」
そう言いながら奥から出て来た楓さんに挨拶をすると、にこやかな笑顔で掃除と接客を任された。