「なり、かわくん」
「なぁ、…今の話どういうこと…?…全然理解できない、んだけど」
「…っ、」
いつからそこにいたの。
どこから聞いていたの?
声が出ない。言わなくちゃいけないのに。
ちゃんと、ちゃんと……“何を”言わなくちゃ、いけないんだっけ?
頭が回らない。だって、この状況になることを、私は少しも疑っていなかったのだから。
「キス、したの?その隣に居るやつと…、付き合ってんの、二千花」
こんな形で吉乃くんとしたことがバレるなんて思っていなかった。
成川くんの顔が強張っている。動揺と疑心をそのまま顔に表したような、そんな顔だ。
何から否定しよう。いや、否定するところは何一つないんだけど。
「付き合ってないです」
そう言ったのは私ではない。
口を開いた吉乃くんの声は、私と話すときより少しだけ低い。感情のこもっていない、なんとなく 適当な声に聞こえた。