心臓の音が大きくなる。

どくんどくん、ざわざわ。


落ち着かない。
なんだか、すごく嫌な予感がする。


背中を嫌な汗が伝った。



「吉乃、くん、?」

「1回も2回も変わんないですよ───キスなんて、」




───ゴトッ、







「……、なんだよそれ……?」






───普通なら、聞こえたはずだった。


いつもは気づく些細な音が聞こえなかった原因はなんだろう。


彼が図書室に入った音に、
彼が歩く足音に、
彼の、呼吸音に。


彼がスマホを落とした音が静寂をぶち壊すまで、私は、その存在に気づけなかった。