「先輩」
「ん?」
「悪いことって、ハマったら…なんか、歯止め効かなくなりませんか?」
図書室はやっぱり静かだ。
普通なら、スライド式のドアの音も、誰かが本をめくる音も、足音も、少しの話声も聞こえるくらい静寂に包まれている。
そんな空間の中で、吉乃くんの、決して大きな声ではないそれは、あまりにも鮮明だった。
「な、に言ってんの」
「先輩と俺の秘密、もっと増やしてみたい」
「ば、ばかじゃないの…っ」
何言ってるんだろう、吉乃くんは。
昨日の1回だけじゃなかったの?
既成事実はたったひとつでも十分効果があるんじゃないの?
彼がどういうつもりで、何を思ってそう言っているのか、私には到底理解できない。