「吉乃くんは…私に用があってきたの?」
「ああ、用事っていうか、気になっただけです」
「気になった?」
「俺とのキス、どこまで活かしてくれたかなって」
何を言っているんだ、と思った。
『昨日の今日だし、先輩にそんな行動力があるとは思ってないので』ってつい数分前に自分で言っていたくせに。
既成事実の効果を知りたがるなんて、吉乃くんは記憶力がないんじゃないの?
て、いうか。
「…そんな堂々と言わないでよ」
「だってどうせ誰もいないですよ。先生も、利用者も」
「それは、」
吉乃くんは変わっている──というか、恥じらいの概念が存在していないような気もする。
私は昨日の夜はおかげさまで眠れなかったし、成川くんのことを考えるたびに吉乃くんとした“悪いこと”がちらついてしまうのに。
吉乃くんにとっては大したことじゃなかったのかもしれない。
それがなんとなく、すこしだけ、寂しいと思う。