…どうしよう。声を掛けようか。




「帰ろうぜー」

「…ん」

「分かりやすく不機嫌になんなって。しょうがねえだろ」




諦めたのか、'ヨシノ'と茶髪くんが出口に向かって歩いていく。


ああ、帰っちゃう。どうしよう。



いや、でも今ここで'ヨシノ'を呼び止めなかったとしても、明日図書室に返却しておけばいずれ'ヨシノ'の元に届くだろう。


この話は有名な話ではない。次に借りる人が早々いるとは思えない。



───しかし、私や'ヨシノ'のようにこの本を求めている少数派が、偶然 明日『消える、』を借りに来たら。


'ヨシノ'の手に届くにはまた1週間の時間が空いてしまうかもしれない。





「あ、あのっ!」