ふいっと読んでいた本に視線を戻す。
読んでいるのはシリーズになっているミステリーだ。
映画やドラマになるほど有名な話ではないけれど、私は結構気に入っている。
もうトリックも犯人も分かって、ヒロインである探偵が全てを明らかにしたところだ。
あと数ページで物語が終わり、シリーズの3へと続く。
今回も面白いトリックだった。
よくこんなの思いつくなぁ。
世の中は天才ばっかりだ。
そんなことを思いながら綴られた文字を頭の中で再生する。
2年生の男子はまだ何やら会話をしているみたいだ。BGMのように入ってくる声に自然と耳を傾ける。
「…あんま有名な話じゃないんだけど」
「タイトルなんだっけ?」
「『消える、』ってやつ。面白いからお前も読んでみたら」
男の子のその声に、私は少しだけ肩を揺らした。
本をめくる手が止まる。
「すぐ返ってくんじゃねー?」
「今すぐ読みたかった」
「はっ。ワガママ言うな」