ぎゅっと手を握り俯くと、「先輩」と、蒼志くんの声が降ってくる。
「未来のことなんてその時考えればよくないっすか?」
その声に思わず顔を上げた。
「俺の好きな小説に出てくるヒーローは、当たって砕けまくってます。それでもめげないで、『好き』だけをずっと言い続けてる。
未来のことなんかだれもわかりませんよ。そのヒロインだって、ずっと振り続けてきた男のこと好きになるなんて想像もしてなかったんだ」
「…、『クレセントに愛の色』、?」
「読んだことあるんすか!そうです。俺、ホントにその話大好きで」
『クレセントに愛の色』は、吉乃くんにお勧めしてもらった本だ。
蒼志くんが大切にしているお話で、
私のとって、宝物になる本。
つい数日前にすべて読み終えたばかりだった。