私の言葉に吉乃くんは驚いたように「え」と声を洩らす。


お金持ちなわけではないし、おすすめされたからと言って毎回買うわけでもない。



けれどなんとなく、吉乃くんにとって大切なお話だと思ったから、私もその感情を知りたいと思った。

手元に置いておいて、何度も読み返して私のとっても宝物になったらいいなと、ただ漠然とそう思ったのだ。


吉乃くんの行動はよくわからないといつも言うけれど、大概私も意味の分からないことをしているなあと思う。




「二千花先輩って、やっぱ変です」

「え、そうかな…」

「はい。でも、…そういうとこも好きです」



サラっと言わないでほしい。

私は、吉乃くんからもらう“好き”に全然耐性がないのだ。すぐ赤くなってしまうし、すぐ日本語を忘れてしまう。




「…、あ、あっちの文庫も見てくる」

「はい」



吉乃くんから教えてもらった本を片手に、私は彼の視線から逃れるように隣の列の棚に向かった。



───やっぱり、吉乃くんは心臓に悪い。