「これ、恋愛ものなんですけど」



意外だ。吉乃くんは恋愛ものは読まないと勝手に思っていた。


そんな私の気持ちを読み取った吉乃くんが「蒼志に教えてもらったんですよ」と付け足す。

なるほど、と納得したものの、蒼志くんが本を読むことも少し意外だった。



「これ、ヒーローがすげーかっこいいんですよ。ヒロインには彼氏がいるのにめげないで告白して、でも振られちゃって。

ヒロインはもともとすごい内気な性格で、けっこう訳ありな部分もあるんですけど、彼氏じゃなくて、ヒーローの言葉でどんどん心がすくわれて、それで好きになって…っていう、まあ、ありきたりといえばそうなんですけど」



「へえ」

「でもなんか、…すごい、共感できちゃうっていうか。愛とか言葉とか、人を変えることができるんだと思ったら感動したんです。…まあ、中学の時の話ですけどね」




恋愛小説によくあるパターンだとは思う。

でも、吉乃くんのおすすめだから、きっと面白いのは間違いないのだと思う。



「読んでみようかな」

「あ、俺持ってるので貸しましょうか」

「ううん。買う」