ー side 吉乃 ー




彼女を初めて見た時、ただ漠然と​───…好きだ、と思った。





「山木?どうかしたのかよ?」

「…あ、いや、わるい。なんでもない」

「どこ見てたんだよー女かぁ?」

「……いや、」





高校1年生、夏。


彼女を見かけたのは、前期末テスト直前の図書室だった。

読書はずっと好きだったけれど、図書室を頻繁に利用する程でもなかった俺は、その日はたまたまクラスメイトの佐々木の付き合いで図書室を訪れていたのだ。



本を読むその姿があまりにも綺麗で、美しい。

落ち着いた雰囲気をまとう彼女は、テスト前にも関わらず、勉強もせず読書をしていた。




彼女の姿を見付けてから どうしてか胸が高鳴っている。


恋をしたことは無かった。
彼女がいたことも、遊んだことも、もちろんなかった。



'人に惹かれる'って、'恋に落ちる'って、'人を好きになる'って​────こんなにも突然で漠然としているものなのだろうか。