吉乃くんのその声はいつも通りのトーンで、他意なんてまるでなさそうな声だ。
後夜祭。
確かに、本来は成川くんと約束していたのでもう先約はいない。話をするにはちょうど良い機会だ。
「…わかった。じゃあ、後夜祭で」
「片付け終わったら、先輩のクラスに迎えに行っていいですか」
「え」
「どうせ合流するんだし、そっちの方が手っ取り早いかと思って」
なるほど、その通りだ。
メイとレナに見られたら何か騒ぎ立てられるかもしれないけれど、まあ、大丈夫だろう。
彼の言葉に頷くと、「じゃあそれできまりですね」と抑揚のない声で言った。
「吉乃くん、またね」
「はい」
そういって再び教室に戻る足を進める。
すこしの緊張とたくさんのドキドキ。
この感情はなんだろう。
この後にまつ後夜祭がひどく待ち遠しかった。