空気が少し重くなる。
私から蛍原さんにかける言葉は思いつかなかった。
成川くんは私と別れたことで正式にフリーなのだ。
蛍原さんの恋が前進してくれたらいいな、と思うけれど、根が良い子の蛍原さんのことだ。
そんなことを言ったらきっと「先輩のそういうとこが嫌いです」と言われてしまうかもしれない。
恐る恐る視線を合わせる。
彼女の表情だけでは、何を思っているかは読み取れなかった。
「あたし、今からかいちょーのところに行きます」
「…そっか」
「かいちょーのこと、慰められるのあたしだけだと思うんで。弱ってるところに浸け込むずるい女にでもなってやりますよ」
彼女なりの、恋の向き合い方。
やっぱりすごくかっこいいなと思う。
ふふっと笑えば、「何呑気に笑ってるんですか」と不機嫌な声が返ってきた。