「あぁ・・・、ごめんね」




新入社員の彼から資料を受け取った私は、彼の目を見ずに小声でそう告げた。




ざっと目を通すと、まだまだ粗は見受けられるが、要点もしっかりと書いてある




し、特に目立ったミスは無さそうだから大丈夫だろう。




そう思い私は何も言わず、側に立って待機している彼から机へと向き直す。




彼は所在無さ気に背中で手を組み、けれど離れることはなかった。




「・・・?」




どうしたのかな・・・と視線だけを向けるが特に反応は無くて。




数分経った時、私の隣に座る同期の阿部が呆れたような溜息を吐きながら、椅子ごと私に近付いてきた。




「なぁ、真中・・・今の資料OKだったのか?」




「・・・え、うん」




「はぁ、お前は・・・」




何をそんなに呆れているのか分からないが、何故か阿部は小さく溜息を吐いた。




大体、私の行動を見ていれば分かるはずだ。




受け取って目を通してミスなど指摘していないし、自分の仕事に戻ったのだから当たり前だろう。




というより、彼は隣で仕事をしていたのではなかったのか。




「だとさ、良かったな」




お疲れさん、と立ち上がった阿部は、新入社員の肩を叩いて連れ添って行った。




またタバコか。一時間前にも行ってきたはずなのだが。




私は小さく溜息を吐いた。




彼は仕事においては物凄く優秀だ。




彼の企画が通らなかった事の方が少ないし、先輩後輩からの人望も厚い。




さらに有名大学の出身であるし、顔もまぁ優れている。




テレビに出る俳優のような完成されたものではないが、少なくともウチの会社で彼の事を好きな人は、片手では数え切れないだろう。




これでもう少しだけ真面目だったら、と内心で彼を評価してしまう自分があまり好きではなかった。




確かに今のように、タバコ休憩だったり居眠りだったりが多すぎるが、それでも誰よりも結果を出しているから厄介なのだ。




きっと自分とは違いすぎる事に絶望しないように、勝手に彼の悪いところを探してしまっているのだろう。




そんな自分が大嫌いだった。




私は自他共に認めるほどの人見知りで、働き始めて四年が経つ未だにこの会社で打ち解けているとは思えない。




タバコも吸わないし、お酒も大の苦手。




だから喫煙所や居酒屋でのコミュニケーションなんて機会がない。




あったとしても人見知りが重たすぎて、まともに会話にならないと思うが。




要するに、人見知りで口も下手な私と、人当たりが良く仕事もできて容姿端麗な彼とでは、同じ二六年間という時間を過ごしてきたのにも関わらず、全くもって何もかもが違いすぎるのだ。




同じゲームの制作会社に入って、同い年で、席も隣。




さらに言えば、シナリオライター枠で入ったのは私たち二人だけだからそれも同じ。




なのにこの差は一体なんなのだろうか。




まぁ、それでもいい。




人は人、自分は自分なのだから。




社内で表面化して何か嫌がらせを受けている訳ではないし、こういった気分の時の方が筆が走ったりするものだ。




そう、今日も自分に言い聞かせる。