なあ、わかってるよ。
そんなに、顔を赤く染めちゃってさ。
俺って鈍感じゃないから、君が誰を思ってるかなんて、わかっちゃったよ、すぐに。
期待していい?
自惚れてもいい?
この気持ちに少し浸るくらいなら、それだけなら。
「和哉くん!持ってきたよ!」
振り返れば、ちりとりを片手に持った君が立っていた。
君の声すら愛おしいなんて、ビョーキかな。
うん、きっとそういうビョーキなんだよ。
いっそのこと、嫌いになってしまいたいと思うほどに。
「おう、さんきゅ」
課題を忘れてきた俺たちは、明日授業で使うらしい空き教室のそうじを担任に任された。
俺は、理由が理由なのだけれど、説明するのも認めているみたいで、なんとなく嫌だったので、掃除することになったら、なんと君と2人きりだった。
「お前、そろそろ部活行かなきゃなんねーんじゃねぇの?」
「え、あ……まあ、そうなんだけど」
語尾が小さくなる彼女は明らかに照れている。
お前の思ってること当てていい?
『和哉くんと、一緒にいれる時間を増やしたかった』って。
すでに練習着を着てから、掃除をしている彼女は、中学からバスケを始めて4年目だ。
俺がお前を好きな歴も4年目ってか。
ふと、俺も中学の頃は、彼女たちとよく練習試合をしたなと思い出す。
「……なんでさ、バスケやめちゃったの?」
今まで誰にも聞かれなかったから、焦った。
悪いことはしていないのに、冷や汗が出そうになった。
けれど、この動揺は悟らせてはいけない。
「バスケよりも、放課後遊んだりしてぇなって」
「そうなんだ。上手だったのになんでだろうって」
君は、足元のゴミに視線を落として、集め始めた。
俺も、君に背を向けて黒板と向き合うと、瞬間的に、緊張がほぐれた。
ごめんな、嘘ついて。
ほんとは、俺もお前とバスケ続けたかったよ。
「そろそろ掃除終わりでいいだろ」
「あ、うん、そうだね」
今、この瞬間も君を抱きしめて、好きだと言いたい衝動に駆られてしまう。
ダメだと言われたものは余計にしたくなってしまう、みたいな。
それを隠すために、必死なのに君はたまに深いところをついてくる。
「ねえ、和哉くん」
「ん?」
すっかり、掃除道具を片付け終えた君が、おかしいくらいに背筋を伸ばして、こちらを見ていた。
「わたしね、言わなきゃいけないことがあるの」
その言葉に察して、続きを言わせてはダメだと、聞いてしまってはダメだと思うのに、どうにも声が出ないし、動けない。
やめてくれ。
俺の決心は、そんな柔なものじゃなかった。
それを崩すようなことを言うのは、やめてくれ。
なあ、俺はビョーキなんだよ。
一応手術は受けても全然治らないような、病気なんだよ。
「あのね……和哉くんが好きなの」
あー。
ここまできてしまったら、断らなきゃいけないのは、わかってる。
君のために。
……俺のために。
だから。
「俺も好き。ごめん」
結局、過ちを犯してしまった。
いつかきっと君を悲しませる。
突き放さなきゃいけなかったのに、最低だ。
君のことを腕の中まで引き寄せた。
泣きそうになってる顔なんて、見られたくない。
「え、え、和哉くん!?」
ずっと俺のものにしたかった。
なによりも好きだと思う。
愛おしいと思う。
たくさん喜ばせてあげたいと思う。
悲しませたくないとも思う。
ああ、でもダメだ。
一度好きだと言ってしまえば、堰き止めたはずの思いは流れ出してしまう。
ずっと隣に。
最期まで隣にいて欲しいなんてわがまま。
どうか神様、彼女を悲しませる未来があることをお許しください。
そう思いながら、君にそっと唇を重ねた。