プロローグ

ひらり、と小さな刺激を頬に受け、玲香はそっと空を見上げた。そのまま頬に触れた桜の花びらを指でそっと摘み、じっと見つめる。

「…」

もう言葉に出すことにさえも戸惑いを感じてしまう"名前"を心の中で呟き、玲香は目を閉じる。あの子と出会った日のことを、ぼんやりと思い出しながら。きっと、二度と届かない遠い場所で元気に過ごしているであろう、あの子の姿を思い浮かべながら。