5.菫■変わりゆく世界■
日曜日の昼下がり。
こんなにドキドキして街を歩くのは、人生で初めてだった。
この世界にとっくに魔法なんてないのは知っていた。願っても空は飛べないし、お伽話のような王子様は突然現れてくれない。けれど潤、あなたの手はまるで魔法ね。
握り締められた手は、とても温かい物だった。
潤はその手でこんな素敵な洋服を造りだし、髪を綺麗にしてくれて、メイクまでしてくれる。
きっとひとりではこんな派手な服で出かけようとは思えない。髪型もメイクも自分では全くしないものだわ。
けれど、潤が隣にいるだけで…それだけで心強くなるんだもの不思議。
鮮やかなスミレ色のワンピースを着て、綺麗な靴を履いて美しいアクセサリーをつける。
それだけでいつもと同じ街並みがワントーン明るくなったような気がする。それはやはり不思議だし、魔法みたいだわ。
そして潤は私の好きな所に行って、好きな事をしようと言ってくれた。
手を取り、春から夏に変わる風を肌で感じると、とてもワクワクした気持ちになれる。着ているもの、身に着けているものひとつでこんな気分になれるだなんて、潤のしている事はやっぱり素敵だわ。
「何がしたい?!」
振り返った潤の笑窪の出来る眩しい笑顔。
それに負けないくらい潤の着ていた空色のティーシャツは眩しかった。
「甘いものが食べたいッ!」
「じゃどっかカフェ入る?」
「カフェとかじゃなくて、食べながら街を歩きたいのッ」