「そういえば…」

「え?」

「大切な物ばかり詰め込んだせいで、会社に着ていく無難な洋服がないわねぇ…」

「いや…お前…それはさぁー……。俺の作った洋服を大切にしてくれるのは嬉しいけど…」

「はぁ??!私がいつ潤の作った洋服を大切にしているなんて言ったの?!
違うわ、違うのよ。この洋服たちはあんたが勝手に作ってはうちに持ってきたのはいいものの、着る機会がなかったの。」

確かに、菫が俺の作った洋服を外に着て出かける姿は見た事がない。

何といっても俺が作る服はどこか派手で、色もカラフルではある。かなり個性的になってしまう。

菫はいつも無難というか…シンプルな服装を好んで着ていた。だからカラフルで派手な洋服は完璧に俺の自己満だ。

けれど俺は自分の作った洋服を、菫以外の女性に贈った事はない。今まで付き合った彼女の誰ひとりとして。

「お父さんから私はシンプルな服が似合うとずっと言われ続けてきたから、潤が作る服は私に似合うとは思えなかったのよ。
だから白とか黒の服ばかりだった。…今思えばお葬式かよ、と」

「菫は白や黒より赤の方が似合うよ。はっきりとした赤」

その言葉に菫は意外そうな顔をした。

「考えた事もなかったわ…。私に赤が似合うの?」