その言葉に大慌てで玄関まで行って靴を揃える。…その小さな背中を見ていると、切なくなる。
別に靴が投げ出されていようが、俺が菫に幻滅する事はないんだがな……。そんなにきちんとしなくていい。俺の前では特に。
一息ついてソファーに腰をおろす。目の前にいる菫はどことなく落ち着きがなくソワソワし、まるで怒られた子供のように眉尻を下げる。ちらちらと視線が刺さる。どうやら俺の顔色を伺っているようだ。
「まさか昨日の今日でやって来るとは…」
俺の言葉に目を大きく見開き、少しだけ怒った顔をする。
「だって潤が来ていいって言ったじゃない。それに鍵だって渡されたしッ。
何よッ。そんなに迷惑そうな顔をするなら出ていくわよッ!」
ソファーから立ち上がろうとする菫を何とかたしなめ、座らせる。するとまたシュンとした顔をして下を向いた。
「そういうつもりで言ったんじゃないって!菫は絶対に来ないって言ってたし…それにまさかおじちゃんに何も言わずに家出をしてくるとは俺も思わなかったんだって!」
「お父さん…何か言っていた?」
途端に不安な顔になり、こちらを覗き込む。
「朝から家の前ウロウロしてるかと思えば、真っ青な顔して菫がいないーって騒ぎまくってたよ。
俺あんなおじちゃんの顔初めて見たからちょっと笑いそうになった。」
いや…あれは傑作だったろう。いつもは冷静沈着なおじちゃんが顔を真っ青にして、まるで人生の終わりつー顔をするもんだから。
確かにあの人は少し横暴な所があって、自分の価値観を人に押し付ける所があるけれど…
娘を大切に想う気持ちは嘘ではないんだろう。ならば何故もっと柔軟に菫の事を考えてあげられないのか。