まさか、とは思った。あの菫に限って、家出なんてする訳ない。あれだけ父親に忠実に生きてきた女だ。

おじちゃんは俺の肩を揺らし「菫が…菫が…」とおろおろとするばかりだった。

行先に、心当たりはあった。昨日菫の携帯に一応住所とロックを解除する暗証番号は送ってあった。それでもまさか菫が家出をするとは夢にも思わなかったが。それも両親に何も告げずに。

「ちょっとおじちゃん落ち着いて!俺も心当たり探してみるから!それに菫ももう子供じゃないよッ。家を出た位で大袈裟だよ!」

「何を言っている!菫は潤くんとは違うんだッ!うちから出たらひとりでやっていけるとは思わないッ…。
本当にどこに行ってしまったと言うんだ……」

「何か分かったら俺からも連絡するからさ…」

何とかその場をやり過ごし、車に乗り込んで急ぎ自宅へ向かう。

今日の予定は変更だ。会社には行かない。直ぐにでもマンションに帰らないと。あんな頑なだった菫が家を出た。何かあるには違いなかった。

マンションに車を駐車して、直ぐに部屋に向かう。

玄関にはまるで投げ捨てられたように黒いパンプスがバラバラに転がっていた。



慌ててリビングに向かうと、そこには馬鹿でかいキャリーケースがこれまた投げ捨てられたように倒れており、ソファーの上でうつぶせで倒れ込むように菫が眠っていた。

全く菫らしくもない。靴も揃えられていなかったし、キャリーケースも倒されて、中から何かを漁ったかのように荷物が飛び出していた。その中に酷く懐かしい物を見つけてしまった。