私はもう諦めていた。夢であった好きな人とも結婚は出来ないだろう。
こんな私に出来る事と言えば、父に決められた相手と結婚して父の会社を共に大きくしていく。そんな現実的な夢しか見れない。
この背にたとえ羽根があったとしても、私は自ら飛び立つ事を選び取らなかった女。
けれど、数か月前私は少しだけ冒険をした。ちょっとした反抗心でもあったのだろうか。
お父さんの読んでいた経済雑誌に出ていた、西城グループの次期社長である西城大輝さん。
一目見た時から素敵な人だと思った。
涼しい目元でクールな印象の彼。そしてその西城グループと篠崎リゾートが業務提携を結んだのは、彼を見かけて数日後の話。
子供の頃の夢はお嫁さん。
その夢を叶えるのならば、全てを父に決められるのではなく、自分の選んだ人と結婚がしたい。けれどそんな私の僅かな夢さえ、神様は叶えては下さらなかった。
「それより西城さんと美麗さんはとてもお似合いだと思うわ。潤もいつまでもちょっかいかけるのは止めてあげてよ」
「ちぇー。菫に言われなくたって分かってるっての。でも久々に超タイプだったんだけどね。
つーか美麗ちゃんって少し菫に似てるよね」
潤の大きな瞳が悪戯に動く。
…私と美麗さんが似ているですって?そんな事は意識もした事が無かった。
けれど、西城さんにもそれは言われた気がする。
あの人こそ花のような人だった。控えめで奥ゆかしそうで、謙虚であって誠実そうな
笑った顔が泣き顔に見えるような、儚い女性だった。…きっと大輝さんも彼女のそんな部分に惹かれたのだろう。