それはそれは…。
まぁそれもそうか…。菫の父親は美意識が高い人だ。それは彼が造り出すお店を見れば分かる事。
娘の婚約者になろうとする人。どんなに地位のある人でも、それなりの相手を用意するだろう。
結構な事ではないか。菫好みの長身のイケメン。西城さんに似ているのならばそれは結構。
けれど出窓に背を預け空を見上げる菫はどこか浮かない顔をしていた。
恋をしたいと言っていた。けれど、誰でも良い訳ではないと。自分好みの相手であるのならば、それに越したことはない筈だが?
「そうかそうかそれは良かったね~。でも何かあんまり嬉しそうじゃないけど」
「でも大倉さんは篠崎リゾートでの’娘’である私と結婚したいみたい」
ふぅっと小さなため息を吐いて、ちらりとこちらを見つめる。愁いを帯びた瞳。それがどこまでも寂しく映っていく。
俺には理解は追い付かなかった。篠崎リゾートの娘である菫?それはもう避けられない運命であるとして、その言葉の本意を掴めずにいた。
「私と結婚したら大倉さんにとって得になる事はいっぱいあるみたい。まぁ、篠崎リゾートの後ろ盾は確かに大きいわね。
それに彼は結婚しても私の自由に生きていいと言っていた」
「自由?」
「えぇ、自由に仕事をしていいって。それに自由に恋をしても良いって。
外で子供を作らなければ私の好きに生きて良いって言ったわ。つまり私に自由にさせる代わりに、自分も自由に生きていたい人なのよね。」