3.潤□閉められた窓□
ピアノを始めたのは菫のフルートがとても綺麗だったから。音楽家になりたいだとか大それた夢は願った事はないが。それでもピアノは好きだった。
港区にある自宅にあるのは電子ピアノだが、ピアノを習い始めた頃母が買ってくれたのは茶色のピアノだった。何でも汚れが目立たないから黒より茶色の方が良いらしい。
フルートは管楽器の中で1番古い歴史を持っていると言う。
木管楽器の中では最も高い音を担当し、まるで小鳥のさえずりのような不思議な音が出る。
菫の母親が昔からフルートを習っていて、俺たちはその音を聴いて育ってきた。
演奏が終わり椅子から立ち上がり窓の方へ行くと、フルートを手に持った菫がにこりと微笑む。
とてもよく晴れた休日の昼下がり。菫は珍しく出窓に腰を下ろし、こちらを見下ろす太陽を見上げ目を細めた。
長いサラサラの黒髪が風で靡く。休日だというのに綺麗に化粧をほどこしており、着ていた白いワンピースはどこか余所行きの雰囲気を醸し出していた。
「デブでも不細工でもなかったわ…」
「え?」
「潤や大地が言ったように大倉さんはデブでも不細工でもなかったわ!」
得意な顔でツンと唇を尖らす。家にいるというのにヤケにお洒落をしているかと思えば、理由はそれか。
「例のお見合い相手?!今日会いに行ったのか?!」
「えぇ、ボヌールでね。
とても素敵な人だったわ。私のタイプの長身で…どことなく大輝さんに雰囲気が似ている…かっこいい人だったわ」