作り笑顔ばかり浮かべて表情筋がおかしくなってしまったかと思った。ボヌールに着く頃にも張り付けられた笑顔のまんまの姿が鏡に映った。
これから大倉さんに会うのだから、この位が丁度良いのかもしれないけれど。
ボヌールには仕事でもよく訪れるもんだから、従業員は皆顔見知り。勿論篠崎リゾートの社長である父の事も皆顔位は知っている。
そのふたりが休日に揃ってくるもんだから、ただ事ではないと思われているだろう。個室へ通されると、客人は先に到着していた。
私達が通されると、サッと椅子をひいて立ち上がり、深く頭を下げた。
「やあ、大倉さん。今日はありがとうございます」
「いえ篠崎さんこちらこそ…こんな機会を作って頂き光栄です。
菫さん、初めまして。大倉 瑠衣と申します」
「初めまして、篠崎菫です」
…驚いた。
大地と潤の洗脳の所為だろうか。デブで不細工な男とばかり思ってここへやって来た。
父は私の事をやはりよく知っているようで、目の前には高身長のスタイルの良い素敵な男性が立っていた。
切れ長の瞳もスッと通った鼻筋も、薄い唇でさえ、どことなく大輝さんに似ている所があるわ。娘の好みは理解っているという所なんだろうか。
けれどこの人は私が選んだ大輝さんとは別人であるのには違いないのだけど。
「まぁまぁ座って下さい。
ほら、菫も」
「えぇ…」
大倉さんはきょろきょろと辺りを見回してにこりと微笑みを向けた。