「潤くんはお父さんの会社は継がないと言っているんだろう?
お父さんから聞いているよ。何でも自分のブランドを立ち上げたいと言っているそうで、モデルなんて仕事もしてちゃらちゃらして
いつまでも子供のような服装をして
それを許してるご両親もどうかと思うが…。佐久間さんは子供に甘すぎると思う」
父の横顔はどこか険しかった。
…けれどお父さん。潤はとても凄い人だと思うわ。
S.A.Kの事だってキチンと考えている。潤のセンスは確かだし、モデルをしているのだって会社の為なのよ。
高校生の頃からアルバイトをしていて、留学も自分のお金で賄った人なの。それに自社ブランドを親の力を借りずに立ち上げたいなんて立派だと思うわ。
それを反対せずに応援しているおじちゃんやおばちゃんも、潤には全然甘くないと…私は思う。
「そうね…」
言いたい事は沢山あったけれどそれを言ってしまえば、父の考えに反していると言う事になってしまうんだろう。
だから同調する振りをして今日も自分の言いたい事をグッと呑み込む。
「それに比べて菫はとても良い子に育ってくれたと思う。お父さんの自慢の娘だよ」
赤信号で止まったかと思えば、父の微笑みがこちらへ向けられる。
私は今、笑っている筈。笑っている筈なのに…口元がピクピクと痙攣して、上手く笑えているかは分からなかった。
父にとって良い子とは果たして何だったのだろうか。自慢の娘とは?
ロボットのように自分の言う事を聞いて、反抗をしない事だと言うのならば私はお人形と変わらないじゃないか。
少しでも彼の意見にそぐわない事をしてしまえば、私は途端に自慢の娘ではなくなってしまうのだろう。