3.菫■父の選んだ人■
いつまでも子供じゃないわ。
自分の置かれている境遇くらい理解しているもの。それに反抗をしたいと思う気持ちがあるのだとしたら、それは私がおかしいだけの事よ。
父は正しい。頭の中で自分を納得させる理由を探す。
遠い昔に見た子供向けのアニメに想いを馳せる程、子供なんかじゃないの。
父の仕事は早かった。イタリアンレストランのオーナーという大倉さんという方との縁談の話を持ち込んだと思ったら、その週の休日に既に会う約束を取り付ける。
契約は早ければ早い方が良い。迷っている間チャンスを逃していく。そんな考えを持つ父らしく、私の気持ちは置いてきぼりのまま、よく知りもしない大倉さんに会う日は来てしまった。
せっかくだから菫さんのお店を見て見たい。との事で会う場所はボヌールになった。
…ボヌールは若い女性をターゲットにしているお店だから、男性が好む場所とは言いずらいのだが…。それに従業員は勿論顔見知り。私と父で男性と会っていたなんて知られたら、陰であらぬ噂を立てられるに違いない。
憂鬱な土曜日だった。
姿見の前で、ワンピースを合わせる。
意識をした事はないのだが、クローゼットの中は黒と白の洋服が多かった。遊び心というものがないのだろう。
人の目を惹くような奇抜な色は好まなかった。…そういう所も私と潤は正反対だ。潤は昔から奇抜な格好を好み、何となくそれを着こなしてしまう容姿と雰囲気を持っていた。ファッション一族で育ってきたというのもあるのだろうけど、私なら原色の洋服など手に取る事もしないだろう。
今日もクローゼットから出したのは、シルエットが美しく見えるディオールの白いワンピースだった。それに合わせるように黒いカーディガンを羽織る。
…つまらない女だわ。