俺はただ…菫にはもっと広い世界を見て欲しいんだ。自分の決められたテリトリーでだけではなく、きっと菫も知らないような素敵な世界が広がっていると思う。

「それは嫌よ…。私はかっこいい人が好きなの…。
デブで不細工だけはごめんだわ…。
それに子供にその遺伝子が引き継がれていくなんて考えるだけで……。
けれど嫌よ!潤の知り合いなんて!私の人生の全てを知っている潤の知り合いだけは嫌ッ!
でもデブで不細工な男しか知らずに人生が終わるのはもっと嫌ッ!
だって私ろくにデートもした事がないし、恋人同士が楽しいと思う事をほぼ経験していないのよ?!
そんな経験ひとつもせずに好きでもない男と結婚するなんて……そんなの嫌ぁーーーーーー!!!」

あの菫にしては珍しく感情を投げ出した方だと思う。

いつだって良い子ちゃんの優等生で、おじちゃんの言いつけを守り続けてきたような子だ。

そんな菫が西城さんを選んだのは、初めてした人生の選択だったのではないのだろうか。その願いは儚くも敗れてしまった訳だが。

「そ、それならばこんな提案はどうだろう?!
菫のしたい事を全部するっていうのは!」

「私のしたい事?」

さっきまで真っ青になって叫んでいた彼女が、きょとんとして目を丸くする。

自分で出した提案だがナイスだと思わないか?

菫はかなり頑なな性格だ。頑張り屋で努力家なのは遠の昔に知っている。けれどそのせいか柔軟性には欠けている。

自分の父親を尊敬するのも正しいと思うのも悪い事ではない。けれどもう少し自分の好きに生きて見たってバチは当たらないだろう。

菫は父親の思い通りに動くロボットじゃない。感情だってあるのだから。それを少しくらい解き放ってみたって、神様は何とも言わないだろう。今まで我慢し続けたんだから。