褒めてるのか貶しているのか分からないが、俺が洋服を造るのと同じように、菫は愛しそうに大切に服を手に取ってくれる。

作る側からすればそれ程の誉れはないだろう。


結局洋服は俺が選ぶ事になる。

手足の長い菫には美しいシルエットのワンピースもよく似合うけれど、たまにはシンプルなパンツスタイルも良い。

ロング丈のコートを羽織り、ゆらゆらと耳で揺れる長いイヤリングを耳につけると、菫はこちらへ向かって花のような笑顔を見せる。


結婚式を終えて入籍を済ませ、菫は篠崎菫から佐久間菫に変わった。

名前が変わったからといって、俺たちの関係性も取り巻く環境も大した変わりはしないんだけど…。

実家はお隣さんで、相変わらず両親同士も仲が良い。かーちゃんとおじちゃんは相変わらず言い合いしてばかりだけど。

ばーちゃんが帰国してからおじちゃんはすっかりと大人しくなって、けれど先日再び舞とばーちゃんが外国に帰ってしまったら安心したのか元に戻った。


余談ではあるが、舞は将来的にS.A.Kを継ぐつもりらしい。そんな事を考えているなんて我が妹ながら全然思いもしなかったけれど、S.A.Kは私に任せて兄は好きな事をしたら良いらしい。

ずっと子供だと思っていたけれど、いつの間にかそんな大人びた事も考えるようになったのだと、成長には驚かされる。

周りに恵まれて、今の自分の生活が成り立っている。

とはいえ自分のブランドを持つのはまだまだ先になりそうだ。けれど菫が隣にいてくれるのならば、夢を見る事さえ心強い。