「すーみーれー」
私の手を握りしめて父はぼろぼろと涙を零す。
娘の私でも引いてしまう程の号泣っぷりだ。
「ちょっとお父さん…」
「嫌な事があったのならばいつでも実家に帰ってきていいんだからな?
もしも潤くんが浮気をするような事があったら速攻離婚しなさい。
菫の家はいつだって私達がいる実家なんだからな?」
これから結婚をする娘の門出の日に、離婚なんていう不吉なワードを言うなんて…。
「ジジイ…なんつー縁起でもない事を……」
「そうですよあなた、大地の言う通り。
今日は晴れの日なんですから。
あ、潤くん来たんじゃない?」
コンコンと控室をノックする音が聴こえた。
ドアが開いた視線の先には――真っ白なタキシードを着た王子様が立っている。
潤だというツッコミは聞かないわ。私にとって王子様に見えるのだから、それは本物の王子様なのよ。
思わず見とれて言葉を失う私に、潤は照れくさそうに小首を傾げた。その顔に胸がキュンと締め付けられるようにときめいた。
「潤……なんてかっこいいの…。本物の王子様よ」
「ちょっと真面目な顔してんな事言わないでよ。照れるじゃんか。
それに菫の方が綺麗だよ。ドレスすごく似合っている」
手を取り合って見つめ合っていると、ゴホンと咳払いが聴こえて私達の間には怒り顔の父が立っている。
「王子様ァ?これがぁ?馬子にも衣裳とは正にこの事だな?」
父の嫌味に潤はにっこりと笑顔で返す。