「ねぇ、あの人ってこの映像の女の子じゃない?」
「絶対そうだよね?!えぇーッ。声掛けようよ」
このままじゃあ人が集まって囲まれてしまうそうな雰囲気だ。
慌てて菫をその場におろすと、手を引いて走り出した。
悲鳴にも似た歓声に包まれて、俺たちは手を取り合って風を切って行く。
「早く走れってー!」
「何よー!潤があんな所で目立つ行動取らなきゃバレやしなかったわよッ
何で私まで走る羽目になるのよ!」
「見せつけたかったんだよッ。世界中の人に!!」
「ほんと馬鹿!!」
馬鹿と言いながらも菫は笑っていた。
「ねぇーー!!!」
「何?!」
「あの大ビジョンみた?すごく素敵だったッ!あれこそ魔法みたいだわッ」
「こっちの方がよっぽど魔法だけどね」
その言葉に空に向かい笑う。菫はきょとんとした顔をしていた。
魔法…か。
確かにあれは魔法。美しく変身して、綺麗に写真に写して貰う。
けれど目の前にいる実物の君の方がずっと綺麗で、それこそ魔法だと思う。
俺、菫と幼馴染で良かった。それこそが産まれた時から手にしていた奇跡だと思うから。
車に乗り実家へ向かう。車内で菫は興奮気味に大ビジョンの事を話していて
ぼそりと「お父さんにも見せたいわ」と言った言葉は聞き逃さなかった。何故か優しい気持ちになる。
きっと大丈夫だと思う。何故だかそんな予感がしていた。
実家に着くと、見知らぬ車が駐車されていた。偉く目につく高級車であった。
そして何故か俺と菫の家の玄関前で、かーちゃんがウロウロと左右に動いていた。何やら落ち着かない様子で。どうしたと言うのだろう。