走り抜けていく人混みの中、不意に笑みが零れ落ちる。
そうだな、きっと誰も俺たちに気づけやしないだろう。これだけの人の数だ。
けどさ、俺こんな人混みの中にいて、地味な洋服を着て、長い髪を後ろで一本でくくっていたってお前を見つける事が出来るんだ。
どれだけの人がいたとしても、菫だけが強い輝きを放っている。俺がこうなのだから、君にとって俺もそうであったのならば良い。
美しく飾られる事はまるで魔法。
どんな人の目も惹きつける強烈な光の下でも、君ならば見つけられる。
「ひゃっ!」
走り抜けていった大ビジョンの下、口をぽかんと開けて空を見つめる菫は地味な格好に地味な髪型に地味なメイク。
それでも見つけられるんだから、これだって魔法のひとつに違いない。
沢山の人の前で菫を抱き寄せ、抱え上げる。びっくりしたような顔をして目を見開いて瞬かせる。
「潤ッ?!」
「何自分たちに見とれてるんだよッ」
「ちょっとこんな所で目立つってばぁー!おろしてよッ」
「やーだねー!」
「んもーッ。注目浴びちゃうじゃないッ!」
確かに目立つな。街中で、人の大勢いる場所で地味に見せてこんなに目立つ君を抱えていたら、そりゃー嫌でも目立つ。
どこからかヒソヒソ話が聴こえる。数人の視線が俺たちへ集まっている気がする。
「キャー!あれって佐久間潤じゃない?!」
「嘘ー!あー!この間テレビに出てた人だよねッ?!」
そんな声が聴こえて、抱き上げられる菫は呆れたような顔をして「ほら見なさい」と言う。
数人が俺に気づいたのと同時に隣にいる菫の姿に気づく。