勇気を出して…。

顔を上げて、父を見つめると…父は変わらず優しい顔をしていた。

私はもしかしたら父の自慢の娘にはもうなれないかもしれない。こんな私に、お父さんは二度と優しい笑顔を向けてくれないのかもしれない。

「お父さん、私ね潤が好きなの」

「うん…」

「私潤と一緒にいたいの。きっとずっとずっと昔から一緒にいたかったのかもしれない。
私は潤の良い所を沢山知ってるし、潤は私の悪い所も沢山知っていると思う。それでも私でいいって言ってくれてる。
私もこれから先潤以上の人は現れないと思う。潤は私の知らなかった事を沢山見せてくれる人なの。
だからこれから先もずっと一緒にいたい――」

思えば簡単な事だった。伝えたい事っていうのは。そんな簡単な事さえ伝えられない私は、どこまでも弱虫で。

分かってくれないと決めつけていたけれど、分かってくれなかった後に父に冷たい態度を取られるのが怖かったのだ。

「ごめんなさい…」

下を向き胸を抑える。

再び顔を上げた時、父はいつも通り優しい眼差しを私へ向けてくれていた。

「何故謝る」

「お父さんの望むように生きれなくて…ごめんなさい。
出来損ないの娘で…本当にごめんなさい…」

「大倉さんとの話は私の方から断っておく。
もう会いに行ったりしないように言っておくから、菫は安心しなさい」

「え?」

「今日は冷えるそうだ。暖かくして寝なさい。私ももう休む」

「えぇ……」

私の言葉に父は否定も肯定もしなかった。
ただ大倉さんの話は自分から断っておく、とだけ。


潤と離れて実家に帰って来て、潤の事ばかり考える毎日が続いた。

でもその日の夜はベッドに入っても父の事ばかり考えていた。

小さかった頃どれだけ可愛がってくれたか、愛してくれたか…。

私が父の期待に応えれるような娘として生きてきたのは、あなたに愛されたかったからよ。
愛されたいと強く望むように、私だって父を愛していた。