そんな話は会社で何となく聞いていた気がする。
その準備に取り掛かっていてここ最近父が忙しかった事も。
SMILE――菫とスマイルを掛けている店名。それは、きっと私の名前だ。
口に等出さなくても、父が私を愛してくれていた事等、ずっと知っていた。
その夜深夜過ぎまで持ち帰った仕事をしていた。
父に決められた道であろうと、私が選んだ道。あの時私が自分の想いをきちんと口にしていたとしたら、未来は変わっていたかもれない。
学区内の公立中学に行きたいと真剣に伝えたら…音大に進みたいってきちんと伝えていたら…理解してくれていたのかもしれない。言わなかったのは私だ。いつまでも逃げていたのは、私だった。
父に嫌われるのが怖くて、幻滅をされるのが怖くて…。自分の気持ちを隠して、生きてきた。そんな事くらいで父はきっと私を嫌いにならなかったはずだ。
「ふ~…やっと終わった…」
失敗ばかりのここ最近。いつもならばサクサクと終わらせる仕事も凡ミスをしてしまって
会社の部下に呆れられるかと思えば、そんな時もありますよと笑って慰められた。
いつも完璧であろうとしたけれど、そうじゃなくても私を受け入れてくれる世界はある。
携帯を見たら潤から『仕事頑張ってね』とラインが届いていた。時刻を見ればもう深夜1時。
喉が渇いたと思いリビングに降りた時だった。