そう言うと、大輝さんは目を丸くした。そしてプハッと無邪気な笑顔を見せた。

きっと大輝さんは美麗さんの前でこんな自然な笑顔を見せるのだ。

しかし次に大輝さんは思わぬことを言った。

「良いと思います」

「はい?何が良いんですか?
良い歳して親に反抗して、色恋で仕事が手に着かなくなる事のどれほど愚かな事か…」

「あーはっはっはっ、やっぱり菫さんは面白いほど真面目な人だなぁ~…
そんな事言ったら美麗なんていい歳こいて親に反抗してしょっちゅう喧嘩しているし、色恋如きで仕事中にドジばかり踏んでいますよ
いいじゃないですか。人間らしくて俺は好きだけどね」

「私と…美麗さんとでは違いますわ…」

「そりゃーたかが大工の娘と篠崎リゾートのひとり娘じゃー違いますけどね」

今度はクックッと意地悪そうな笑みを浮かべる。

きっとこんな時美麗さんならば自分の意思をはっきりと大輝さんにぶつけて、あの感情表現の豊かな表情で怒ったり笑ったりするのだろう。

…私と美麗さんとでは、違う。

「私はそういう事を言っているのではありませんッ!
それにたかが大工の娘…じゃありませんわ。どんなご職業の父親でも立派な物は立派ですわ…。比べるものじゃあありませんわ」

「それならば菫さんだって美麗と同じで普通の女性です。
普通の、25歳のか弱い女の子です。親と意見の食い違いで喧嘩もするし、色恋如きで仕事が手に着かなくなったりもします。
それを馬鹿みたいだって俺は思いません。だって人間ですから」