「ご、ごめんなさい。私とした事が…
えぇっとそうねボヌールの件だったわよね。そうそう私の後輩の女の子が素敵な企画書を作ってくれて」
鞄の中から企画書を取り出そうとすると、中から荷物が雪崩のように崩れ落ちて行った。
私ってば…何をやっているの…。
椅子から立ち上がり慌ててそれをかき集めると、大輝さんはそれを手伝ってくれてこちらへ向かってにこりと微笑む。
「少し休憩しましょう。珈琲でもいれてきますよ」
大輝さんにまで気を遣わせてしまって、大人として恥ずかしいったらないわ…。
私ってこんなに間抜けな人間だったのかしら。
もっとしっかりしている人間だと思っていたのだけど。
「俺は菫さんっていつでも気丈に振舞っていて、完璧な人間だと思っていました。
仕事の時にボーっとする事なんてないし、男社会の仕事の中でもバリバリと仕事をこなすキャリアウーマン風の女性かと
篠崎グループのお嬢様なのに感心していたんです、いつも」
やっぱり大輝さんにもがっかりされているに違いない。私が仕事に打ち込んでいたのは、父に認めてもらいたかったからだ。
さすがは篠崎リゾートの娘だ、と褒めてもらいたかったから。いつだって良い子でいたかった。
自分の中で父の意に反する事ばかりするのは、悪い子なのだと言い聞かせて生きてきた。
「私はきっと大輝さんが思っているような女ではありませんわ…。
全然しっかりもしていないし、ちゃんともきちんともしていない…。
こんな歳になって親に反抗してしまう程子供で、たかが色恋ごときで仕事も手に着かなくなるくらい…情けない女なのよ」