情けない気持ちでいっぱいだった。
けれど、父へどう伝えれば私の気持ちを分かってくれると言うの?
何を伝えたとしても伝わらないと決めつけて…考える事すら放棄した。
「私がもう少ししっかりとしていたらお父さんもああならずに済んだかもしれないわね」
母の横顔はどこか悲し気だった。
お母さんが悲しい気持ちになる事なんてないのに…私と父の問題だったのに。
「お父さんね、本当は大学院に行って日本の歴史について勉強をしたかったの」
「大地に何となく聞いている…」
「でもね、私が体が弱かったから結婚してくれようとしたのよ。
夢だった大学院にも進まずに自分で会社を立ち上げてね。私には何ひとつ苦労をかけないって言って
そのせいでお父さん頑張り過ぎちゃって、本当は自分のやりたい事があったのに我慢ばかりさせちゃって…」
「お母さんはどうしてお父さんと結婚したの…?」
「優しい人だったから。
そうやって自分の事だけじゃなくて、お母さんの事を優先して考えてくれて
あなたたちが産まれてからも、自分の為じゃなくて人の為に生きれるような人だったから」
そう言った母の横顔は先ほどの悲しみから一変して、少女みたいだった。
私は父が優しい人だというのを知っている。小さい頃から私や大地をとても愛してくれたのも…。
危ない道を歩かせないように、安全な道ばかり用意してくれていた事も。全ては私達の幸せだったという事も知っているのだ。
だって隣にいる母はこんなに幸せそうなのだから。