「ごちそうさま……」

箸を置いて立ち上がると、また母は心配そうな視線をこちらへ向ける。

「菫…。そんなに残しちゃって…」

「ごめんなさい、お母さん食欲がないの…。
タルトも明日の朝に頂くわ…。私もうお風呂に入って寝るわね。」

「菫……」

父は黙ったまま食事を続けていた。

何だって言うのよ。潤の言う通り帰ってきたはいいけど、全く歓迎されていないようなんだけど?!

これならば帰ってこない方が良かったではないか。きっと父にとって私はもう期待を裏切った出来損ないの娘に違いないんだ。

25年間父の言いつけを守り生きてきたのに、たったひとつの失態でもう私に幻滅ですか?それならそれでいいけどね。大体潤と暮らした事も家を出た事も失態でも何でもないわ。

なのに……どうして私はまだ父に認めてもらいたがっているのだろう。どうして駄目な娘だと彼に呆れられるのがこんなにも悲しいのだろう。

生活は何一つ変わらなかった。

父が少し無口になったのと、母が私達ふたりを心配そうに見つめるのを除いては。

「よッ調子どう?!」

「調子どう?!じゃないわよ!そんな呑気な声出しちゃって!
私がどれだけ針の筵のような生活をしているかなんて分かっちゃいないでしょ」

「あはは~」

部屋に戻ったら潤から電話が着ていた。

こっちは離れて寂しくてしょうがないと言うのに、電話口で潤は呑気に笑っている。

なんつー能天気な奴だ。…もしかしてこいつ、私が出て行ったのにせいせいとしている?まさか私がいなくなったと同時に女でも連れ込んでるんじゃあ……。