11.菫■私の気持ち■
気が付けば夏が終わる。たったの3か月の出来事だった。けれど私にとって人生で二度目の冒険をした3か月になった。
久しぶりに実家で自分の部屋に飛び込んだ瞬間、懐かしい匂いがした。けれど窓を開けると秋の匂いが途端に立ち込める。
真向いの窓は閉め切られたまんまだった。窓枠には小石の入った小箱が小さなぬいぐるみと一緒に並んでいる。ひとつ掴んで隣の窓へぶつけると、コツンと窓を叩く音が虚しく響いた。
当たり前。潤はあの家にはいない。
潤はまた再び一緒に暮らせると言った。家に帰れと言ったのも、お父さんの為であってそれが潤の優しさだとは知っている。
けれどこの家にはもう私の欲しい物はなかった。望んだ自由も勿論ない。話し合いに応じてくれない人だというのは重々理解している。それでも帰って来た。依然話し合いは決裂したまま。
「今日は菫の好きなハンバーグを作ったのよ。味はどう?」
「美味しいわ、とっても」
「そ、そう?沢山おかわりもあるからね。それに菫が好きなケーキ屋さんでケーキも買ってあるわ。
好きでしょ?苺のタルト。ご飯を食べ終わったら一緒に食べましょうねッ」
珍しく母が饒舌だ。普段は滅多に口を開かずに父や私の話に耳を傾けるのが多い人なのに
それとは対称的に私と父は黙り込んだまま黙々と食事を続ける。 ここに帰って来てから父と交わした会話は’ただいま’と’おかえり’のみ。
黙々とご飯を口に運ぶ父は、思っていたよりも案外元気そうだった。過労で倒れたですって?!元気そうじゃない…。まさか本当に演技のひとつでもかましたんじゃないのかしら…。私を実家へ引き戻す為に。
勿論私の方から楽しく会話をする気はない。その様子を見て母がハラハラとした表情をしている。