この間まで入院ひとつした事のなかった潤のおばちゃんと比べて、私達が産まれた後も数回入院をするような人だった。生まれつき人より体が強いタイプではない。

けれど命に別状のある病気にはかかった事がなかったし、それでも父がよく心配していて決して母を外へ働かせにはいかなかった。

だからずっと専業主婦でいたのだ。だから高校時代から付き合っていた父と結婚して母は働いた事がない。


電話を切った後、潤はふーっと小さく息を吐いて目を瞑る。まるで落ち着きを取り戻すかのように。だって病院をメモッたその紙に書かれた文字は指が震えていたせいかどこか歪だ。

そしてこちらへ真剣な眼差しを向けた。

「菫着替えろ。直ぐに病院に行こう」

体中から血の気が引いていくのが分かった。真っ白く折れそうに細い母の、花のように笑う笑顔が頭をよぎる。

「潤!お母さんは?!」

「え?」

「病院ってお母さんに何かあったんでしょう!?大地はなんて?!」

取り乱し潤の腕を掴む。その自分の手はさっきの潤と同じように震えていた。

その腕を強く掴む潤の手はもう震えてはいなかった。

「違う。取り合えず落ち着け。病院に運ばれたのはおばちゃんじゃない」

「え?」

「おじちゃんの方だ」

その言葉に今度は全身の力が抜けていくようだった。

母とは対称的に父は入院さえした事のない健康そのもののような人で、私が知る限り病気の類で会社を休んだ事は一度もない。

それどころか風邪ひとつひいた事がないような人だったと思う。