「珍しいわね」

「あ、切れた。」

電話の着信は大地だった。本当に珍しい。下らない事でラインを送ってくるのはよくある事だけど、電話は滅多にかけない。

お互いに電話で話す事もなかったし、電話を掛ける前も今平気?と確認を取ってくるタイプだったから。

「どうしたのかしら?」

「掛け直さなくていいのか?」

「いいわよ。大地の電話なんてどーせ下らない事が多いんだもの。
同棲中の彼女と喧嘩して家に入れない、とか。私じゃ解決出来ない事ばっかり。
それにしてもあの子がラインをいれる前に電話をしてくるなんて珍しいけど…。」

そんな事を言っている間に再び潤の持っている携帯は着信音を響かせる。

…今日は本当にしつこいわ。そんな事を考えているうちに潤が勝手に着信のボタンを押す。

「もしもし~?うん、俺潤。菫は隣にいるよー」

「もうッ勝手に出ないでよ…」

「え?!」

ゆっくりと上体を整えて電話に出た潤の方へ顔を向けると、潤は素っ頓狂な声を出して、そして途端にその表情から笑顔が消えた。

「それで?体の方は?うんうん、それで?」

真剣な潤の横顔が曇っていく。携帯から僅かに漏れる大地のぼそぼそとした声はいつもとは少し違っていた。

「病院は?」

紙とペンを取り出し、潤が何かをメモる。

書きなぐられた文字に浮かび上がったのは、大きな大学病院だった。

心臓の音が途端に速くなるのを感じた。潤はそのまま大地とやり取りを続けていた。

直ぐに脳裏を掠めたのは、母の顔だった。母は見た目通り私達が小さい頃から体の強い人ではなかった。