「ばーちゃんは不老の魔法を使ってるって昔言ってた。俺小さい頃本気で信じてたもんな」
「アハハ、文江さんらしい。てゆーか文江さんが言うと冗談に聞こえないから恐ろしいわ」
ソファーにふたり並んで何気ない話をする。それはありふれた幸せな時間だ。
笑い合って、互いに目が合うと潤はゆっくりと私の頭を自分の方へ寄せてキスをしようとした。
父の事はもう考えないようにした。
「菫?」
「ん?」
「携帯鳴ってる」
「そうみたいね」
テーブルに置いてあった携帯から着信音。
時刻はもう23時過ぎ。しつこい位長くなっているけれど、私は潤のキスに夢中になっていた。
電話が切れて潤はソファーに私を押し倒した。こちらへ見せる笑顔はどこまでも甘くて、その視線の中で溶けてしまいたかった。この幸せな時間を誰にも邪魔されてたまるか。
着ていたティシャツに手をかけようとした瞬間、再び着信音はけたたましく鳴り響く。
「ちょ~しつこいじゃん…。もしかして大倉さんじゃん?」
「まさかあれから会いに来てないし、着信拒否もしているのよ?」
「着信拒否ってお前酷いな…」
「だって私はハッキリ拒絶したもの。それでもしつこく連絡をしてくる方が悪いのよ。」
ティシャツにかけていた手を解いて、潤はゆっくりとソファーから起き上がった。
…もう電話なんてどうでもいいんだけど。立ち上がったと同時にテーブルに置いてある携帯を手に取る。
私も体を起こして「誰?」と携帯の画面を覗き込む。そこには珍しい人の名前が浮かび上がっていた。