「それは父が……」

自分で言ってハッとした。

何でこんな時に父の名が出て来るのか…。

私は父の背中を小さい頃から見続けてきた。

美しい物を愛し自分の理想をお店という形を借りて具現化してきた。それを見習い、私も自分の理想とするお店を造る楽しさを知った。

あんなに分からず屋で苛立っていたのに、私は父と同じ事をしてきているのだ。

「それにね、この間潤くんが雑誌の取材で言ってた。
自分が服を作ってきたのは小さい頃にそれを受け取ってくれた子がすごく嬉しそうにしてくれたからだって。
それが自分にはすごく嬉しかったから、服を造るって夢が出来たんだって。
それって菫っちの事でしょう?すごいよね、そんな小さな頃から潤くんは菫っちの事が好きだったんだなーって思うと、運命ってこの世にあると思っちゃう。
あたしも早く運命の人に出会いた~いッ」

…潤がそんな事を。

確かに小さな頃から潤は私へ洋服を造ってくれた。最初は素直に喜んでいた気がする。潤が作る洋服はまるでお伽話に出てくるお姫様が着るような見ているだけでワクワクするような物ばかりだった。

けれどそれを父が好まないと知ってから、素直に喜ぶのは悪い事なのだと決めつけた。だから人前で着る事はなかった。それでも飽きずに潤は何着も私へ洋服を作ってくれた。

一度も袖を通した事のなかった服だって、全てはクローゼットの中に大切に保管していた。私にとっては宝物だったからだ。

どうして沢山着てあげなかったのだろう。それを作った人の気持ちも考えずに。