資料に目を落とし、大輝さんがくすりと笑う。
「菫さんはロマンチストな人ですよね」
4代続く西城グループの跡取り息子である彼は、出会った頃は私と同じような人種だと思っていた。
自分が生まれた星の下で自由を与えられずに生きて、結婚相手も自由に決められない。けれど彼は違った。
クールな表情の奥にどこか熱い物を秘めており、自分の意思を貫き通して、そして自ら選んだ女性と人生を共にする事に決めた。私とは似ていたようで全然違う。そんな人だった。
「そうかしら?でも女性は好きよねロマンチストな話。
私はあんまり…。お伽話って結局綺麗事じゃないですか。願えば夢は叶うなんてフレーズ思わず笑っちゃうわ…」
「えぇ僕も完璧主義で仕事のよく出来るあなたがこういったお店を作りたいと思うのは昔から意外なんですが…。
きっと菫さんは本質はそういう人なんじゃないかなって」
顔を上げた彼の作り笑顔。それを返すように口角を上げて微笑み返す。
完璧な自分を作り上げるというのならば、私の右に出る者はいないだろう。…だって幼い頃から私はずっと自分を隠して生きてきたような気がするのだから。
大輝さんも中々……。けれど冷たく見える視線の奥に、愛する彼女の為ならばどこまでも熱くなってしまう彼の本質は隠し切れない。
「本質ですか?もしも私がロマンチストな夢想家に見えるのだとしたら、大輝さんの眼は節穴って事ですよ。
私が狙うのは女性ターゲット。今回に関してはレジャー施設という事で子供も視野に入れています。
そして女性や子供っていう生き物はロマンチストで夢のある事が大好きな生き物ですから。そうやって冷静に考えてそれをビジネスに活かす私は残念ながら大輝さんの思っているような女ではありませんわ」